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第30話  

「......」

 篠田初の頭は真っ白になり、まるで誰かに動きを封じられたかのように、体が硬直して動けなくなった。

 この男と一夜を共にしたことはあったが、彼が彼女にキスをしたのはこれが初めてだった。

 彼の唇は、果たして彼女の想像通り冷たく、そして薄かった。

 しかし、そのキスは何とも言えないほど曖昧で、情熱的だった。

 篠田初の握りしめていた手は無意識に緩み、瞼が自然と閉じられ、彼の急激に押し寄せる深い愛情に溺れていった......

 「よし、もういいです!」数分後に近くで男の声が聞こえた。

 レストランの照明が再び全て点灯した。

 篠田初も瞬時に我に返り、不吉な物に触れたかのように、慌てて松山昌平から離れた。

 どういうこと?

 彼女は一体どうかしていたのか?

 まさか、彼女のもうすぐ前夫になる男とキスしていたなんて?

 彼女は急いで手の甲で唇を拭いた。

 その仕草が、高冷で傲慢な松山社長を不快にさせた。

 「拭くなよ、さっきは結構入り込んでたじゃないか?」

 篠田初は拳を握りしめ、彼を殴りつけたい衝動を抑えながら、恥ずかしさと怒りで問い詰めた。

 「松山昌平、あんた、何をしてるの?どうかしてるんじゃないの?」

 松山昌平はポケットに手を突っ込み、邪悪な笑みを浮かべた。そのハンサムな顔には、少し物足りなさそうな表情が浮かんでいた。「大したことじゃない。敵の技を用いて敵を制するだけさ」

 彼は、彼女の唇を情熱的に見つめていた。その唇は彼がキスしたことで赤く染まり、まるで咲き誇るバラのようだった。その光景が彼の心をくすぐった。

 その時、カメラを提げた太った男が、にこにことした笑顔で彼らに近づいてきた。

 「松山社長、先ほどのお二人のパフォーマンス、本当に美しくてロマンチックでしたよ!多くの恋愛ドラマよりも幻想的です!」

 「ライブを見ていたネットユーザーたちは大興奮でした。以前あなたを非難していた連中が、今では皆、最高と叫んで、コメント欄は祝福で溢れています!」

 「この危機管理、素晴らしかったです。唯一の問題は、キスが長すぎて濃厚すぎたことです。そのせいで時間が大幅にオーバーし、一部のユーザーがショーじゃないかと疑っています」

 松山昌平の冷ややかな顔にはほとんど感情が見られず、淡々と答えた。

 「構わない。元々
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